ナノワイヤによるリキッドバイオプシーのフロンティア開拓
安井 隆雄 (ヤスイ タカオ) さん
東京工業大学 生命理工学院
研究の背景
細胞外小胞は、人体を構成する全ての細胞が細胞外に放出している生命分子であり、細胞により惹起される人体の時空間情報を反映しています。この細胞外小胞は直径40-200 nmであり、内部に遺伝子発現を制御するmicroRNAが、外部に細胞取り込みの選択性を決定する膜タンパク質が多数存在しており、細胞間や個体間、生体システム全体の情報伝搬物質として機能しています。そして、病変組織が放出する細胞外小胞は各種疾病のバイオマーカーとしての活用が注目されています。特に、血液や尿、唾液中の細胞外小胞を解析し、細胞外小胞の解析による生命科学研究やリキッドバイオプシーへの展開は学術的・社会的ニーズが高く、細胞外小胞の網羅的捕捉技術開発は渇望されていました。
研究の成果・ポイント
細胞外小胞の網羅的捕捉技術として、ナノワイヤを使った分離方法を開発しました。この分離方法を用いて、尿1mL中細胞外小胞のmicroRNAプロファイル解析による脳腫瘍検知や、膜タンパク質解析による脳腫瘍サブタイプ“グリオブラストーマ”検知、を実現しました。また、卵巣がん患者の腹水中細胞外小胞の膜タンパク質解析による卵巣がんの診断・治療経過予測も実現しました。
今後の展望
近年、ナノワイヤをシート形状に加工し、ヒト体内の臓器への直接貼付と、臓器表面の細胞外小胞解析を実施しています。臓器表面の細胞外小胞解析により、細胞外小胞が惹起する生命現象の解明に繋げていきたいと考えています。
(左)尿や腹水の細胞外小胞を分離するナノワイヤ(右)ナノワイヤシートによるヒト体内の臓器への直接貼付の概念図