プローブ顕微鏡を用いた単分子の操作と局所化学合成


川井 茂樹 さん

物質・材料研究機構 先端材料解析研究拠点

研究の背景

化学反応とは広義の意味では分子の構造を変化させることであり、それにより生成される物質や材料なしには、現代の生活はなりたちません。一方、単分子レベルでその構造変化を追跡することは困難でした。近年に開発された走査型プローブ顕微鏡の計測技術により、一つの分子の内部構造を直接的に観察できるようになりました。私たちは、この超高分解能の計測技術を用いて、表面を反応場とした単分子の操作と局所化学による合成に取り組んできました。

研究の成果・ポイント

走査型プローブ顕微鏡を用いた直接的な分子骨格の観察をとおして、ピコメートルの分解能で単分子やその凝集系の構造や状態の解析を実現し、表面科学と化学の境界領域である表面化学の発展に寄与してきました。これまでに、①自己組織化膜の制御、②単分子の状態解析、③分子間力の計測、④表面化学反応の開発、⑤炭素ナノ薄膜の合成と機能創出などを行いました。その一例として、三次元構造のグラフェンナノリボンの合成を実現し、更に、基盤から垂直方向へ飛び出ている部分を反応場とした探針による付加反応も実現しました(図1)。

今後の展望

単分子の構造を直接的に観察できる計測技術は、表面科学のみならず化学においても大きな転機をもたらしたといえます。単分子合成やその新規化合物の評価により学理の発展、それを用いたデバイスの実現など、今後の研究の展開が期待されます。

3次元構造のグラフェンナノリボンの合成と、
探針を用いてフラーレン分子を接合する概略図

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