NLRP3 inflammasomeによる新しいウイルス認識機構の解明

一戸 猛志 さん

東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター ウイルス学分野

 ウイルスが細胞に感染すると、数時間以内に宿主の自然免疫システムがこれを認識する。このウイルス認識システムは、感染初期のウイルスの増殖を抑制するだけでなく、感染局所の炎症反応やウイルス特異的な免疫応答の誘導を制御する。我々は、toll-like receptorsやRIG-I-like helicasesが、ウイルスの核酸を認識することとは異なり、細胞質中のNLRP3がウイルスの感染に伴う細胞質中のイオンバランスの変化を認識していることを明らかにした。インフルエンザウイルスのM2タンパク質は、トランスゴルジ中のプロトンを細胞質中へ流出させることによりNLRP3 inflammasomeを活性化させている。また脳心筋炎ウイルスの2Bタンパク質は、小胞体やゴルジ体で高く保たれているカルシウムイオンを細胞質中へ流出させることによりNLRP3 inflammasomeを活性化させていた。実際にNLRP3が細胞質中のイオンバランスの変化をどのように感知しているのか今後の更なる研究が必要であるが、これらの研究成果は、ウイルスの病原性発現機構の理解や、ワクチンに対する免疫応答を増強させる新しいアジュバントの開発に役立つ可能性のある重要な知見であると言える。

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