原子間力顕微鏡による単原子分子計測技術の開発

杉本 宜昭 さん

東京大学大学院新領域創成科学研究科

 材料工学、触媒化学、半導体工学など様々な分野において、物質の性質を単原子分子レベルで理解することが必要とされる時代になっている。例えば、触媒では、表面のどのサイトに分子が吸着し、どのように化学反応が進行するのかを調べることが重要である。そこで、物質の局所的な情報を得る計測技術の開発が期待されている。我々は絶縁体でも個々の原子を観察できる原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、様々な単原子分子計測技術を開発してきた。(1)まずAFMを用いて探針先端の1つの原子と表面の1つの原子との間に働く1対1の化学結合力を測定することによって、表面の個々の原子を元素同定する手法を提案し実証した。(2)また、探針との間に働く斥力を精密に計測することにより、有機分子内部の炭素骨格を室温で初めて可視化することに成功した。(3)さらに、探針との間に働く相互作用力を精密に制御することによって、表面の個々の原子を操作して、ナノ構造を組み立て、原子スイッチとして動作させることにも成功している。以上、原子間力の精密測定に基づいた単原子分子レベルの究極的な計測技法の開発により、たとえば微細加工された半導体中の不純物原子やドーパントを元素同定して配列させたり、材料中の機能元素の化学状態を調べたり、触媒反応物を単分子レベルで同定する道が切り拓かれた。


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