金属錯体ナノ細孔内での高分子化学

植村 卓史 さん

京都大学大学院 工学研究科

 人類の発展に大きく寄与してきた高分子材料の研究は100年近くにわたる化学の主要テーマであり、それを基盤として膨大な機能物質群の開発が行われてきた。通常、このような高分子材料を合成する際には、フラスコや反応釜といった高分子鎖一本からすると非常に大きなスケールの容器を用いるため、構造制御のされていない複雑に絡み合った高分子が生成してしまう。そこで、我々はナノサイズの規則的な細孔を有する多孔性金属錯体に着目し、世界で初めて重合反応場として利用することで、高分子材料が本質的に抱える問題点の解決に取り組んだ。すなわち、多孔性錯体のナノ空間のサイズ、形状、表面機能を重合反応やモノマーに合わせて合理的に設計することで、得られる高分子の一次構造(分子量、立体規則性、反応位置など)や高次集積構造(形状、周期性、配向など)の精密制御を行った。これにより、通常法では全く不可能だった高分子材料の合成や、機能性発現に不可欠な超構造集積体の構築を可能にした。
 現在の産業では巨大スケールの反応容器を用い、大量・安価に高分子材料を提供することに重点を置いているが、新興国の台頭もあり、国内生産量は減少の一途をたどっている。我々が開発した”ナノスケールの工場”からは、高機能・高付加価値の高分子を合理的に生産できることから、近い将来、高分子生産プロセスの常識が変わることが期待される。


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図の説明
多孔性金属錯体のナノ細孔を重合反応場とすることで、得られる高分子の構造制御が可能になる。