生活文化の形成と近代デザイン史 家具を中心として

石川 義宗 さん

東洋美術学校 デザイン研究室 専任講師

研究の背景

 デザインの歴史は印刷物や衣服、工業製品といった日用品の発展を産業革命以降の近代史観にしたがって記述し、その美術的変遷を主体にしてきたと言えます。しかし、本研究はデザインとデザインを受容する生活者の関係に注目し、生活文化としてのデザインの姿を記述しようとしています。例えば、家具は様々な時代や地域で作られ使われ、美術品でありながら生活道具でもあり、室内を演出したり家事労働に使われたりします。哲学や文学の関心をひきつけてきたのは、家具というものから人の本質を垣間見ることができたためではないでしょうか。デザイン史が美や機能だけでなく、生活態度、アイデンティティ、身体といった事柄によっても記述されるなら、より当時の日常感覚に近い歴史観を提示できると本研究は考えました。


研究の成果

 例えば19世紀のアメリカにおけるシェーカー教徒の村では、極度に装飾を排した簡素な家具が量産されました。本研究はシェーカーが残した文章などから、彼等の信仰を体系化し、簡素さに託された豊潤な修辞の世界を明らかにしました。しかも、その思想は村の形成・発展・衰退、さらには木工技術の機械化などに応じて変化していることも分かりました。シェーカー教徒の家具は、生活者の内面的表現であると同時に、生活者を取り巻く現実の投影でもあるという重層的な関係に、近代史観では語り得ない、生活文化としてのデザインの姿を指摘しました。また、この研究の過程でシェーカーの家具30点あまりをコンピューター・グラフィックスで再現し、写真撮影では困難な断面形状や内部構造の分析を行いました(以下図版)。シェーカー教徒の家具・建築デザインは、20世紀において国際的な関心を集めましたが、本研究はそれがアメリカ、北欧、日本によって受容されたことに注目し、ローカルなデザインがグローバルに参照されてゆく経緯も明らかにしました。
 家具を題材とした研究は、オリエンタリズム、アーツ・アンド・クラフツ運動、ウィーン分離派、民芸運動などのデザイン史で扱われてきた主要なテーマについても行ってきました。それらについて、西洋と東洋、クラフトとデザイン、美と実用、伝統と近代、機械と手仕事といった、デザイン史の二項対立的な図式をこえた研究成果をあげています。


今後の展望

 今後、本研究は名作椅子を幾つも発表してきたトーネット社に注目して企業的な発展に目を向けたり、コンピューター・グラフィックスによるデジタル・アーカイヴの構築を行ったりする予定です。また、職人と連携し、これまでの研究と関連したデザインの提案を行うことも考えています。



CGによる再現と造形分析の様子