マンテーニャ作エレミターニ聖堂 オヴェターリ礼拝堂壁画における遠近法

盛本 直美(もりもと なおみ) さん

神戸大学大学院文化学研究科(博士課程)

はじめに

 この度は、花王芸術・科学財団の美術に関する研究奨励賞という栄誉ある賞をいただきまして、誠にありがとうございました。この場をお借りして、関係者の方々に心から御礼申し上げます。今回受賞の対象となりました論文は、イタリアの画家アンドレア・マンテーニャ(1431-1506)の最初期の作品であるパドヴァ、オヴェターリ礼拝堂エレミターニ聖堂の壁画装飾に関するものです。ちなみに昨年は、マンテーニャの没後500年記念の年で、各地で大規模な展覧会や国際会議が開かれ、画家に関する新たな研究書も多数出版されています。


研究の成果

 さて本論文は、礼拝堂装飾のうち、先行研究において、マンテーニャ絵画の特徴である古代モチーフや、消失点を通常より低い位置に置くことで、下から見上げたような効果を得る遠近法の使用が少ないことから、左壁装飾に比べ、積極的に取り上げられることのなかった右壁「聖クリストフォルス伝」について、その遠近法、画面分割の手法を中心に、画家の芸術形成を促した要因と環境を論じたものです。特に、ドナテッロやアルベルティといった、フィレンツェの作家たちとの交流について考え、彼らの作品と、マンテーニャ作品とを比較することで、フィレンツェ絵画、フィレンツェ遠近法からの影響、そして、それらを実際の建築空間に適応させるべく、この若い画家が画面に施した様々な工夫を考察しました。それによって、本作品は、いわゆる「マンテーニャ様式」確立以前の未発達な段階のものではなく、彼が独自の絵画様式を切り開いてゆく過程において、様々な試行錯誤を繰り返した実験の場として重要な役割を果たしたもの、つまり、イリュージョニスティックな手法を駆使し、ひとつの空間を統一された装飾で覆い、現実空間と結び付けるという彼の後の作品へと直接つながる要素を持ったものであることを明らかしました。


今後の展望

 今後は、画家のマントヴァ時代の作品、特に現在はロンドンにある「カエサルの凱旋」連作を取り上げ、マンテーニャにおける物語絵の変容・完成について論じる予定です。それによって、この画家の建築空間と一体化した大規模な室内装飾についての研究を網羅し、盛期ルネサンス以降に次々と現れた、教会や宮殿内の一室を飾る壮大な物語絵の発展過程、そしてその過渡期におけるマンテーニャの役割が明らかにすることができると考えます。