シューベルトの思想的環境を再構築する――「ナンセンス協会」の実態調査

堀 朋平(ほり ともへい) さん

国立音楽大学 非常勤講師

研究概要・成果・評価

 貴会の助成による本プロジェクトの研究成果は、2つの領域におよぶ(これら2領域は、申請書に記 載した内容と対応している)。

 第一に、シューベルトの友人たちの知がひとつの結晶をみた組織「ナンセンス協会(Unsinns- gesellschaft)」にかんして、オーストリアの2つの機関――「ウィーン市庁舎図書館」と「カールスプ ラッツのウィーン博物館」――で資料調査を行い(2018年9月)、資料の閲覧・撮影・複写をすること ができた。また当分野にかんする膨大な研究を世に出したRita Steblin 氏とも市内のカフェで面会し、 いろいろな議論を重ねることができた。このトピックにかんする随一の先行研究者とじかに会って質問をするこができたのは、極めて貴重な体験であった。なお本調査のエッセンス(および氏との対話の記録)は、下記論文にて公表された。堀 朋平「ナンセンス協会とシューベルト――作曲家の生を物語ることについて」国立音楽大学『研究紀要』第53集、187‐198頁、2019年3月。

 第二に、こうした友人間の知的交流は、その全容が必ずしもドキュメント化されず、しかもその内容が 作曲家本人に及ぼした影響を必ずしも実証的に辿れないという2点において、作曲家研究・音楽学研究にあって辺境視されてきた研究トピックだといえる。この種のトピックには、たとえばほかにも「作曲家の宗教性」や「音楽と精神分析的な話題との接点」が挙げられよう。本プロジェクトではこの二つのトピックにも併せて目を向けることで、「確実な実証はできないものの、ある切り口を設定してみると多くの事実が繋がってくる」という利点を重要視した(支出項目のうち、とくに邦語文献の大半はこの分野に充てられている)。この話題に関連し、シューベルトと「異教性」に触れた研究として、以下の論文が公表された。 堀 朋平「〈ロマン主義的神話観〉とシューベルト――ギリシア神話とプラトンの受容」『シェリング年報』第26号、41‐51頁、2018年7月