ヨーロッパ時代のE.ヴァレーズに関する総合的研究 -初期作品を中心にして-

沼野 雄司(ぬまの ゆうじ) さん

桐朋学園大学 音楽学部 教授

 本研究はフランスに生まれ、のちにアメリカに帰化した作曲家E.ヴァレーズの伝記的諸問題および創作の実態を総合的に把握しようとするものである。


 申請当初は、パリ音楽院の初期資料とザッハー財団の資料を共に扱う予定であったが、春から夏にかけての事前調査の段階でフランス側の資料が十分に調査できない可能性が高いことが判明し、様々な検討と試行錯誤を経た結果、現時点で、彼に関する資料を集中的に所蔵しているスイスのパウル・ザッハー財団における資料研究にすべての海外滞在日程を振り分けることになった。


 その意味では現地調査の場所は当初から若干変化したと言えるのだが、しかし、その分、ザッハー財団の資料をくまなく調査することが可能になり、イタリア時代、ドイツ時代、フランス時代を中心にした初期資料を本格的に参照する中で、十分に所期の目的を果たすことができたと考えている(むしろプランの辞典よりも、はるかに実り多いものとなった)。とりわけ、ヴァレーズがある時期から年齢を2歳偽っており、そのせいで最晩年にわたるまで多くの混乱が生じている過程を、発端の時点から綿密にトレースできたのは大きな収穫だった。これらの事実の発掘によって、この作曲家が故郷を離れてアメリカに渡り、最終的には帰化に至った理由も、部分的にではあるが明らかになったと考えている。


 また、初期作品のスケッチ等を検討することによって、当時のヴァレーズがモデルとしていた他のヨーロッパ作曲家の作品、および経済的に援助を受けていた人物などをほぼ確定することが可能になったのに加えて、未亡人の日記(非公刊)を全時期にわたって詳細に検討することによって、これまで全く知られていなかった様々な伝記的事実を知ることができた。興味深いことに、この中には日本の楽壇人(例えば吉田秀和や黛敏郎)との密接な交友関係も含まれている。また、本人のパスポートなどを含む貴重な画像資料も、財団との交渉の末、10点ほど収集することができた(これらは全て著書の中で公開する予定である)


謝辞

 2週間を越えるスイス滞在は、多額の費用を要するものであり、個人の資金ではきわめて困難であったと想像されるが、花王芸術・科学財団の助成によって完遂することが可能になった。この場を借りて深く感謝したい。本研究の最終的な成果は、2018年度中に春秋社から発売される単著『孤独な射手の肖像E.ヴァレーズとその時代』(仮題)において公表される予定である。