ドイツ・アメリカでのアーノルト・シェーンベルクの音楽語法の映画音楽への影響

白井 史人(しらい ふみと) さん

ベルリン・フンボルト大音楽学部博士課程、東京大学大学院総合文化研究科・博士課程

研究概要・成果・評価等

 19世紀末の映画の誕生と1920年代後半からのトーキー映画技術の発展により、映画の音楽という新たな分野が成立した。私は、この新たな分野の発展・普及と20世紀の音楽の創作・受容との関連を研究している。
 現在は、作曲家アーノルト・シェーンベルク(1874-1951)の音楽語法と映画との関連を扱う博士論文を執筆している。シェーンベルクは、1920年代の活動やアメリカ亡命後の創作・教育活動などで映画産業と様々な接点を持っていた。ドイツ、アメリカでシェーンベルクに師事した作曲家には、後に映画の音楽を多数手がけた者も多い。そうした後続世代へのシェーンベルクの音楽語法の影響を明確にすることが本研究の課題である。
 2014年の4~5月にかけて、ベルリン・フンボルト大学音楽学部に研究滞在し、ベルリン芸術アカデミー資料館でのハンス・アイスラー遺稿やヴァルター・グロノスタイ遺稿の調査を進めた。ハンス・アイスラー(1898~1962)は、シェーンベルクに師事した音楽家のなかでも特に積極的に映画の音楽の分野に進出した作曲家である。ドイツ語圏を中心に研究も進展しているが、本研究では1930年代後半の12音技法の映画への導入や、アメリカ亡命後の活動に関する資料調査を行った。ヴァルター・グロノスタイ(1906~1937)は、1920年代のベルリン芸術アカデミーでのシェーンベルクによるマスタークラスへの参加者である。1920年代に、映画の音楽におけるノイズの積極的活用を提唱し、時事オペラ、映画の音楽、ラジオドラマなどを作曲した。ただし、出版された作品は少なく活動の全貌は明らかではない。本研究では、特に、20年代後半のグロノスタイの未出版楽譜の調査を進めた。
 6月に帰国し、東京大学大学院総合文化研究科にて博士論文の執筆を進めた。8月にドイツ出張を行い、ドイツ・ミュンヘンのバイエルン州立図書館に所蔵されているヴィンフリート・ツィリッヒ(1905~1963)の遺稿や、フランクフルト映画博物館に所蔵されている無声映画伴奏の関連資料を調査した。ツィリッヒも、グロノスタイと同じく1920年代のベルリンでのシェーンベルクのマスタークラスへの参加者である。ツィリッヒが作曲した映画『白馬の騎士』(1934)などの楽譜資料や、映像作品の閲覧を行った。


成果・評価

 ハンス・アイスラー、ヴィンフリート・ツィリッヒらの自筆資料の調査を行い、1930年代のドイツの事例に関する研究に一定の進展が見られた。当年度に収集した資料調査の主たる成果発表は執筆中の博士論文であるが、シェーンベルクと映画との関連を扱う論文を投稿し(採録決定)、ハンス・アイスラーに関する論文を準備した。アメリカの事例に関する一次資料調査が今後の課題であるが、アイスラーが音楽を付した映像資料や文献収集には一定の成果が上がった。