近代英国におけるオルガンの世俗化・大衆化:1880-1940年代の公共・娯楽施設及びメディアを中心としたオルガン文化の発展と受容

早坂 牧子(はやさか まきこ) さん

ブリストル大学 学生

 産業革命以降、英国では各地の公民館、博覧会場、水族館といった世俗施設でのオルガン導入が進み、自治体の専属オルガニストによる安価な定期演奏会が人気を博した。本研究は、1850~1950年にかけ様々な世俗の「場」で発展した英国オルガン文化について、オルガン利用の実態、レパートリー、受容の三側面からその大衆化の展開を整理し、その結果としてもたらされた英国オルガン作品の独自性を検討することにある。バーミンガム、リーズ、マンチェスターの各タウンホール、セント・ジョージズ・ホール、プリマス・ギルドホール、コルストン・ホール、ブライトン水族館、クリスタル・パレス、ボーンマス・パヴィリオン劇場、ブラックプール・タワー・ボールルーム、ゴーモン・ステート劇場、BBCラジオプログラムを事例研究の対象とし、各施設で演奏された楽曲のデータ収集・分析を行ったところ、全体的にバッハ、ヘンデル、メンデルスゾーン、ピアノ小品やオペレッタ等のオルガン編曲の占める割合が顕著であった一方、地理的条件や運営指針の違いによるレパートリーの差異も認められた。また、こうした演奏会のため新たに創作されたオルガン曲は、歌謡性に富む旋律、リズムの創意工夫、和声の明瞭さにおいて共通し、演奏会プログラムの中で、バッハを筆頭とする伝統的オルガン音楽とほぼ軽音楽と見なされたオルガン編曲とを結ぶ役割を担っていた。こうした所謂「タウンホール様式」の語法を活かした作曲家の例としてホリンズ、ルメア、ウィトロックが挙げられるが、伝統的オルガン書法を守りながら、オペラ、交響曲、ダンス音楽、ジャズの要素を巧みに取り入れた彼らの作品が、シネマオルガンの隆盛により伝統的オルガン音楽と大衆オルガン音楽との乖離が進む中、特にBBCラジオ放送において両者の橋渡しとして機能していたことを、BBC Written Archives Centreにおける調査をもとに論じた。ここに19世紀後半からの英国世俗オルガン文化の展開の一つの帰着を見ることができる。本研究の詳細は、ブリストル大学博士学位論文として2015年3月末までにまとめられる予定である。